(カルテアの君……)
頭にあるのはただ1人の人だけ…。
想い描くは彼の姿のみ…。

傍にいれずとも、想うことは自由だと思っていた。

しかし彼人も、誰か見知らぬ人のものとなってしまうのか。

そう思うと胸が張り裂けそうだった。

バーバラは虚空を見上げ、ただ思い臥せっていた。

________

「どうにかならないものかしら」
「何か言ったソフィア?」
「!いいえ。何でもないわ」
ソフィアは自分が口に出しているとは思わずに、慌てた。

ファイゼン城では、今は昼時。
バーバラの部下達も昼食を済ませ、片づけている最中だった。
ソフィアはバーバラの部屋まで昼食を運びはしたものの、手をつけていない朝食を見て、それでも何も言わずに下げてきた。
「もったいないなあ」
「そうね」
みな思うことはあった。最近のバーバラについてだ。

バーバラは彼女達の主である。
彼女達はみな勇敢な騎士であった。昔は。
デヴィーチェ以後、勢いを失ったこの騎士団は、今は名誉もなく行き場もなくこの城に籠っている。
しかし、不満があるというわけではなかった。皆が平和を取り戻し、安穏に暮らしていけるのであれば。
自分たちは、今ある場所で普段と変わりなく、修行に励んでいた。
だが、それもまた最近までの事。
バーバラが覇気を失い、部屋で空を見上げ、呆けている様をみて彼女達はどうにかせねばと、各々が思っていた。

スポンサーリンク

しかし、何か打開策があるわけではなかった。

その彼女達の中で、とりわけバーバラの側近でもあったソフィアだけは、バーバラの気持ちを察し、また何も言えずにいた。
だが、責任感の強い彼女は何とか、バーバラの目を覚まさせることは出来ないかとも思っていた。

(カルテアの君など、手に届くはずもない)

しかしバーバラの想いが分からないでもない。

(あの方は…)

そこまで思って、はっとした。
自分まで惹かれているかのような錯覚に陥りそうになったからだ。

ソフィアはカルテアの君と直に会ったこともない。
ただその武勇と流れてくる、とめどない武功とほんの少し聞き及んだ容姿を想像出来るくらいだった。

バーバラはカルテアの君と戦場で会ったことがある。

その時、バーバラから話しを聞いたのはそれだけだった。
色恋を口にするような主ではなかったからだ。

それがどうだ。
戦が終わって、婚姻話が出たとたんにあの落ち込みよう。

カルテアの君とレフィルとの仲を知らないわけでもなかっただろうに。

そこまで考え、ソフィアは少しうんざりもした。

そう簡単に気持ちを伝えられていれば、ここまでにはならないか、と。

斧の前では、男達にも引けを取らない主にも純情なところがあったものだ。

バーバラの事はよく知っているつもりだった。

(他の男に言い寄られても、見向きもしないのに)

でも、このままにはしておけない。

ソフィアは思い立った。

スポンサーリンク