「バーバラ様、少し出かけてきます」
部屋の中へのバーバラに声をかけたが、返事は返ってこなかった。

それでもソフィアは他の仲間に断りを入れ、ファイゼン城から外に出た。

(街に行くのは久しぶりだわ)
ソフィアはこのファイゼン城に来てから、山歩きに慣れてきていた。
最初越してきたときは、こんな山城に籠ってどうなることかと思ったが、住めば都とはよく言ったもの。
女だらけの騎士団の主の側近というのも伊達ではなく、山道にも慣れたもので、山に出ては獣を狩り、食糧として持ち帰ることもあった。

そんな慣れた道をくだり、道々で考えるのは主の事。

(これがいい案とは、我ながら思えないけれど)

直談判。

とはいかないが、カルテアの君が聞きしに勝る人物であれば返事位はくれるかもしれない。
そう考えたソフィアは、書簡を手にしてしっかりとした足取りで歩を進める。

木々に登る小動物でさえ、何だか自分を励ましてくれているようにすら思える。

いや、そんな小動物に励みを求めているのかと思うと、自分が少し嫌になって、笑いかけていた笑みが少しひきつった。

_______

3時間ほど歩いただろうか、道も平地になり人里まで降りてきた。
もうすぐ、小さな街に着くだろう。

そこで少し喉を潤したいところだが、先ずは配達屋を探さないといけない。

多分、今頃でも酒場にいるだろう。酒を飲むためではなく、情報収集の為に。

_______

ソフィアは街に着き、真っ先に酒場へと向かった。
小さい街と言ってもこの街にも騎士団の詰所がある。
配達屋は、騎士団の人間だ。
一応は。

酒場の扉を潜ると、まだ人は少なかった。
酒場の主人が、グラスを磨いている。

その少ない人間を1人ずつ眼で追い、見つけた。

丸いテーブルで、1人静かに酒を嗜んでいるようだった。

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「ここ、いいかしら?」
ソフィアは、配達屋のテーブルに言うより早く席についた。

配達屋は驚いた。
「ソフィア!ソフィアじゃないか!元気だった?嬉しいね!また会えるなんて!
どうかした?こんなところまで降りてくるなんて。………何かあったんだね?」
1人まくしたてる配達屋は、察しがいい。
「レックス、久しぶりね。私は元気よ。そう。実は頼みたいことがあるの」
「ふふ、私も暇だったからね。要件くらいは聞いてあげるよ」
「実は…この書簡を届けてほしい方がいるの。訳は聞かないで。
でも凄く大事なことなのよ」
「訳も話せず、届けてほしいって?一体誰宛だい?」
「………カルテアの君よ」
「あはは!馬鹿言っちゃいけないよ。今王都は大変な祝賀モードなんだよ?
その最中に、カルテアの君にだって?一体どういう内容なのさ」
「言ったでしょう。聞かないでって」
「話にならないね」
「お願いよ、レックス。あなたなら今すぐにでも王都へ行けるでしょう?
本当は私が行きたいくらいだけれど、今は傍を離れたくないの」
「それは、ファイゼン城にいる仲間のため?それとも…」
「詮索は嫌いよ」
「そうかい。でも、まあ。そうね。ソフィアのそんな顔も観れたし、今丁度時間もあるし、行ってあげてもいいわよ?」
「お願い」
「貸しにしとくからね」
配達屋はにんまりと笑った。

配達屋は、この小さい街の騎士団に所属している。
とはいえ、かなり自由に活動出来、ことのほかレックスは自由過ぎるほどこの仕事を楽しんでいた。

ソフィアが酒場で待つなか、配達屋は詰所で馬に乗り、支度を整えてまた戻ってきた。

「急ぎだね?」
「ええ」
「今はこの子(馬)しかいなくて、この子を飛ばしていくよ。
返事は期待しないほうがいい。とにかく、2日で戻る」
配達屋はいつもの早口でまくしたて、馬をひと撫でした
「いい子だね。…行くよ!」
配達屋は駆けて行った。

ソフィアは待つことにした。
バーバラの気持ちを伝えて返事が欲しいだなんて。
勝手な振る舞いだとは思ったが、何もしないでただ想いつめる日々の主をどうにか救いたい。
………それも自分のわがままだろうか?
ふと思いもしたが、その想いは胸からかき消した。

そんなソフィアを、物陰から見ている人間がいた。

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